コンバーテック2021年10月号プレサービス
89/110

89令をかけることではない。変革を実行して根付かせるために、経営としての仕組みを明確にし、持続可能なものとして定着させることである。コンバーティング業界に限らないが、古い体質の企業では、号令をかけただけで社内の仕組みは変えないまま、現場の有志が提案してくるのを待ち、提案に対して評論しているだけの態度も珍しくない。トップが率先して組織の整備や権限移譲を進め、人材のアサイン、予算配分、プロジェクトおよび人材評価のあり方を変える取り組みが求められる。自己診断では、事業計画、組織図・体制図を振り返るとよいだろう。③DX推進体制とマインドセットの醸成〜DX推進のための体制構築および関係者のマインドセットは醸成されているか〜 体制については、DX推進をミッションとする部署や人員、役割を明確化し、次いで経営層、事業部門、IT部門などが彼らに協力する体制ができているかを確認されたい。コンバーティング業界では、他業界よりIT人材が相対的に少ないだろうし、社内で足りないスキルを補うためにコンサルティング会社など外部との連携も積極的に考えたい。コンサル活用に不慣れな企業も散見されるが、せめて軌道に乗せるまでの起爆剤として、あるいは活動の方向付けとして、大胆に外部の力を借りることも一考の価値がある。 体制整備とともに求められるのは、関係者がDXを推進できるマインドセットである。DX推進がすぐ成功するとは限らないため、失敗を許容する風土や失敗から学ぶ姿勢が求められる。したがって、外部コンサルは風土改革や人材育成にまで尽力してくれる会社を選びたいものである。また、人材のスキルはITに偏重するのでなく、事業ニーズを理解する人材とデジタル技術やデータ活用に精通した人材をバランスよく融合したチームを心掛けたい。自己診断では、職務分掌や人材育成制度、スキル要件を振り返るとよいだろう。④定量的進捗管理の仕組み〜DX推進の取り組み状況や経営変革の度合いを計測しているか〜 取り組み状況を計測するには、事業全体におけるデジタルサービスの割合、投資額、利益などを指標化し、PDCAサイクルとともに定点観測する仕組みを整備するとよいだろう。コンバーティング業界では製造業の企業が多く、取り組み当初はデジタルサービスに該当する事業がほとんどなく、投資も利益も限りなくゼロに近いといった状況も想定されるが、どの企業も最初は同様なのでひるむ必要はない。 なお、DXによる経営変革の具合を計測する上で、(筆者の経験では)別途の指標を設定する必要はほとんどなく、マーケティングにおける新規顧客獲得割合や研究開発速度など、通常の経営指標で事足りるものと考える。 本節では「ITシステム構築の枠組み」のクエスチョンをアレンジし、自己診断用に問いを提示してみよう。⑤〜⑧の各問いに対しても、先述の3点満点で回答してみてほしい。⑤ITシステムの要件〜構築するITシステムはDXの推進の要件を満たしているか〜 DXが目指す価値創出の基盤となるITシステムの要件とは、概ね以下のように定義できるだろう。社内のITシステムがこれらの要件を満たすかを確認されたい。・データ活用:データをリアルタイムで使いたい形で使えること。DXで求められるデータの種類を判断し、データ利活用を可能とするシステムを再構築・新規構築することが必要である。・スピード・アジリティ:変化に迅速に対応できるデリバリースピードを実現できること。環境変化へ迅速に対応するためには、システムの変更や機能追加などをスピーディーに行えなければ意味がない。・全社最適:データを、部門を越えて全社最適で活用できること。システムとデータが部門を越えて活用できるものにすることが求められる。⑥ITシステムの評価と仕分け〜既存のITシステムのリスクや能力を評価し、活用できるものが見極められているか〜 新たなITシステムを構築するにしても、既存のシステムのすべてがレガシーであるとは限らない。システムのリスクや能力について評価し、不足点を明確にする作業が不可欠である。そのため、IT資産管理台帳やシステムリスク管理台帳、システム分析・評価結果などの資料を作成し、既存のIT資産の全体像と課題を理解した上で、DXに積極的に活用できるものとそうでないものを仕分ける作業を実施されたい。⑦ITシステムの構築体制〜ITシステムの要件定義や設計ができる体制は構築できているか〜 ③のDX推進のための体制とは別に、ITシステムの構築についても体制整備と人材確保・育成が不可欠となる。ITベンダーへの丸投げではなく、ビジョン実現のために価値創出へつながる領域に資金と人材を配分し、システム投資や再構築について部門横断的に判断・決定できる仕組みを整えるとともに、レガシーシステムに引きずられることなく、自ら要件定義や全体設計に取り組める人材の確保が必要となる。ここでも、スキルの不足を補完するためのコンサルティング会社との連携を考えたいところだ。4.続いて「ITシステム構築の枠組み」を自己診断しよう

元のページ  ../index.html#89

このブックを見る