コンバーテック2021年10月号プレサービス
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2.金属材料の「弾性変形」と 「塑性変形」1.はじめに スクリーン印刷は、スクリーン版と基材との間にクリアランス(隙間)を設定して、ゴム製のスキージで版を押し下げ、伸ばしながら印刷する原理である。このため、多くの方に、印刷画像が伸びスクリーン版が変形する「版伸び」不具合が起きやすいと思われている。しかし、現実には、ステンレスメッシュ版であれば、適正なテンションでの適正なクリアランスの場合、5万回以上の印刷でも、全く「版伸び」不具合は起きない。このことは、筆者が、1996年に、韓国オリオン電機を技術指導し、世界で初めて42インチプラズマディスプレイパネル(PDP)の背面基板をオールスクリーン印刷工法で量産化に成功したことで実証した事実である。筆者は、当時から、金属材料であるステンレス線材のスクリーンメッシュは、バネやゴムのような弾性体であり、強度限界以下であれば、何十万回伸ばしても元に戻る性質であることは自明のことであると考え、確信をもって指導に当たった。 その後、スクリーン印刷の印刷寸法精度や「版伸び」やその対策などについて、スクリーン印刷業界の方々と何度も話す機会があり、「メッシュは、強度限界以内で印刷すれば、何万回でも印刷できる」ことを伝えてきた。しかしながら、「クリアランスを採るから伸びるのは当たり問い合わせsano@sp-solutions.com前」「伸びを抑えるために、クリアランスは、できるだけ小さくすべき」と考えを変えない方も多く、なかなか、理解していただけなかった。そして、このような方に考えを改めてもらうためには、材料変形の基本である「弾性変形」と「塑性変形」の違いを、明確に理解してもらうことが必要だと考えるに至った。 本稿では、スクリーンメッシュの「弾性変形」と「塑性変形」の違いを説明し、「版伸び」不具合を起こさないための適正な版テンションとクリアランスの強度限界について解説する。 図1に、金属片の引張テストのグラフを示す。横軸Xに伸び(ひずみ)をとり、縦軸Yに引張強度(テンション)をとっている。これが、金属材料の強度を測定する場合の一般的な測定方法であり、所定の形状の材料を一定の割合で伸ばし(ひずみ)その際に加わった引張強度(テンション)を測定するものである。X軸の伸び=ひずみ(Strain)と、Y軸の引張強度(テンション)=応力(Stress)から、このグラフをS-S曲線と呼ぶこともある。 グラフの立ち上がりの直線部である比例限度以下での引張強度の値を、伸びの値で割った値(グラフの傾き)を「弾性率」と呼び、材料強度を表す指標となる。高弾性率とは、弾性率が高いこと、つまり硬いことで、低弾性率とは、柔らくて変形しやすいことである。別の指標では、材料の上降伏点や最大応力を比較することもある。ただし、スクリーン印刷における微妙な「版伸び」不具合を考える場合は、わずかな変形も問題になるため、グラフの直線部が曲線に変わる点の「比例限度」を比較することが有効である。 グラフが直線の領域では、一定の引張強度(テンション)で一定の伸びが生じていることになる。この変形を弾性変形と呼ぶ。弾性変形とは、引っ張り力である外力を受けた材料の内部で原子や分子図1 一般的な金属材料のS-S曲線(d-engineer.com参照)応力σ伸び、ひずみ引張強度(テンション)弾性変形領域上降伏点最大応力破断下降伏点弾性限界比例限界99

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