コンバーテック2021年12月号プレサービス
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2.SCCBCによるPETの化学的 表面改質86コンバーテック 2021. 121.はじめに ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)は、最も身近な例ではPETボトルとして常に身の回りにあるプラスチックである。また、耐熱性、耐寒性、透明性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れた特徴を持つプラスチックであり、その用途は前述した飲料用ボトルだけではなく、基板・包装用途や絶縁シート、クリアホルダー、繊維など多岐にわたっており、生産量も中国などを筆頭に、大きく成長している1)。 さらにPETはリサイクルにおいても注目を集めている素材である。従来から回収されたPETボトルをマテリアルリサイクルして利用する用途は非常に幅広く、繊維に再生加工され衣料品やカーペットなどとして製品化されていた。また最近では再度ボトルとして再生する、いわゆるボトル to ボトルの取り組みが一般化するようになり、その結果1993年にわずか0.4%であった回収率が、2018年には91.5%にまで増加している2)。またPETはケミカルリサイクルの研究や産業化が最も進んでいる素材でもあり、今後さらに多くの分野に応用展開されていくと考えられる。 このようにPETはプラスチックとしての特性やリサイクル性に優れた素材ではあるが、その反面、表面特性を改質することが非常に難しく、剥離用フィルム問い合わせ■shyao@fukuoka-u.ac.jpとしても用いられるほど接着性のない樹脂として認知されている。現在この表面特性を改質する一般的な手法は、プラズマやコロナ処理などの物理的手法である。しかしこれら手法は、広い面積を均質に改質することが難しく、曲面や細孔内部・閉鎖系には適用できず、また改質効果が経時的に消失する、分子鎖切断が生じるために薄膜系では力学的な物性が低下する等、適用できる分野や用途に限界があることが知られている。他方、化学的な処理法としては成形加工中の半溶融状態で薬剤を塗布するインラインコーティング(In-Line Coating)があるが3)、これもやはりフィルム形状の製品にのみ適用できる手法であり、3次元の成形体には適用が不可能である。 一方、福岡大学では2012年から側鎖結晶性ブロック共重合体(Side Chain Crystalline Block-Copolymer:SCCBC)を用い、PETと同様に難改質性で接着性を示さないポリエチレン(Polyethylene:PE)やポリプロピレン(Polypropylene:PP)の化学的表面改質に関する研究を行ってきた4)~11)。今回この技術を応用し、PETに対してSCCBCによる化学的機能化を試みた結果、良好に表面の化学的機能化特性を発揮することを見出した。 本稿では、基本的なSCCBCの改質機能発現のメカニズムや重合法および改質手法について述べ、PETへの適用結果について研究例を報告する。 側鎖に炭素数で8以上の長いアルカン鎖を持つモノマーからなる高分子は、側鎖で結晶化を起こす側鎖結晶性高分子となることが知られている12),13)。SCCBCは、この側鎖結晶性高分子からなる側鎖結晶性ユニット(Side Chain Crystalline Unit:SCCU)と、親水性や接着性等の物性を持つ機能性高分子からなる機能性ユニット(Functional Unit:FU)を組み合わせたブロック共重合体である。福岡大学でこのSCCBCの希薄溶液にPEを浸漬した結果、FUが示す特性にPE表面特性を改質できる機能を発現することを見出した。またその改質効果は、PE基材が凝集破壊するほど強力であり、さらにFUの化学構造を選ぶことでPE表面を良好に親水化あるいは抗血栓性化できることも確認している。 従来、PEは相互作用力としてはごく弱い力と認識されてきたファンデルワールス力しか持たないため、接着性がないと考えられてきた。しかし、SCCUがPEとほぼ同じ結晶構造を構成するために、これらが共晶化という極めて強い相互作用力を発揮することでSCCUが表面に吸着し、図1に示すように、結果としてFUがブラシ状に基板表面を覆い、PE表面の化学的な機能化改質が実現したと考えられる。 さらに我々はこの知見をもとに、SCCBCがPP表面も化学的に改質でき 2.1  SCCBCによる難改質性高分子 表面の改質機能発現メカニズム福岡大学工学部 化学システム工学科教授 八尾 滋革新的なPET表面の化学的機能化手法

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