コンバーテック2021年12月号プレサービス
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RTFTWL表2 表示容量・フレーム周波数と移動度の関係(筆者作成)1920×1080(HD)4K×2K1.8cm2/Vs3.6cm2/Vs7.2cm2/Vs8K×4K(Super HD)3.6cm2/Vs7.2cm2/Vs14.4cm2/Vs0.9cm2/Vs60Hz120Hz1.8cm2/Vs240Hz3.6cm2/Vs事、応用物理学会終身会員、Society for Information Display Senior Member、『薄膜トランジスタ技術のすべて』(2007年、工業調査会刊)、『High Quality Liquid Crystal Displays and Smart Devices』(Edited by S.Ishihara, S.Kobayashi and Y.Ukai,2019年、英国工学技術学会刊)など著書多数。とともに充電に必要な時定数τが増加する。 線形領域でのTFTのON抵抗RTFT(Ω)は、電界効果移動はμ(cm2/Vs)、チャネル長さL(μm)、チャネル幅W(μm)、ゲート絶縁膜の単位面積あたり容量(CINS)、TFTのゲート電圧VG(V)、ドレイン電圧VD(V)、しきい値電圧Vt(V)を用いて次の式で示される。μ CINS(VG−Vt) ………………………(4) TFTによる画素の充電を、選択期間内に終了するには、τ<<Tを満足する必要がある。したがって、TFTの要求移動度は次式で示される。 τ=RTFT×(CLC+CS) …………………………………(5) 大面積化による画素容量の増大、高精細化による走査線数nの増加、フレーム周波数比mの増加とともに、TFTには高い移動度が要求される。 表2は、ある条件下での要求される移動度を、表示容量、フレーム周波数の関係をシミュレーションした結果である。表から、表示容量がHD(1920×1080)、フレーム周波数60Hz、駆動に要求される移動度は1cm2/Vsと実情の2倍の値が必要であることが分かる。a-Si TFT-LCDは表示容量の増加やフレーム周波数の増加に伴って、TFTの書き込み時間が減少するため、トランジスタのサイズを大きくしたり、駆動電圧を上げたりすることで対策している。しかし、このような対策では、開口率の低下や消費電力の増加などデバイスとして好ましい状態ではない。 そこで、書き込み特性を向上することが重要な課題になってきた。 今まで主流だったa-Si TFT駆動のTFT-LCDは、小型のスマートフォンからモニターおよび大型TVに至るまで、LTPS-TFTとIGZO-TFTが主流になりつつある。 a-Si TFTとIGZO半導体層の成膜技術は共に真空成膜に変わりはない。しかし、11月号の表1に示したように成膜方法は異なる。前者はPECVD(Plasma Enhanced 【著者経歴】 1968年、大阪大学卒業。99年、工学博士(東京工業大学)。ホシデン㈱およびソニー㈱でa-Si TFT-LCDおよびLTPS TFT-LCDの黎明期からR&Dおよび事業化に従事。2008年3月、ソニー退職。現在、Ukai Display Device Institute代表。Journal of Display Technology(A Joint IEEE/OSA Publication)Co-Editor、大阪市立大学大学院非常勤講師、関西コンバーティングものづくり研究会幹コンバーテック 2021. 12VDID1Chemical Vapor Preposition)、後者はPVD(Physical Vapor Deposition)である。PECVDによるa-Si膜作製の原料はシランガスであるが、PVDによるIGZO膜はIGZOターゲットを用いたスパッタリングである。前者はガスを用いたチャンバークリーニングが適用できるが後者はできない。したがって、パーティクルによる歩留まりは、おのずと前者が有利である。2)F.Peng, et al., JAP 121 023108 (2017)3) E-Lin Hsiang, et al.:https://doi.org/10.1002/jsid.10584) 鵜飼 育弘:マイクロ・ナノ領域の超精密技術,学振130委員会編,pp.194-201(2011)5)T.Kurita:SID2001 Digest, pp.986-989 (2001)6)J.Someya:J Soc Inf Display 15, pp.79-86 (2007)109 yasuhiro.ukai@spice.ocn.ne.jp4.おわりに ディスプレイデバイスの応答時間は、表1に示したようにTFT-LCDはOLEDやMicro LEDに比べ、桁違いに遅いと認識されている。しかし、ディスプレイデバイスの情報源は映像信号であり、2値信号によるOn/Off表示ではない。したがって、応答時間を評価する上では人間の視覚に基づいた評価法(MPRT)が最適であることを理解いただけたと思う。 この分野における日本の技術者の貢献(NHK放送技術研究所栗田泰市郎氏5)、三菱電機染谷潤氏6)を忘れることはできない。【参考文献】1) 鵜飼 育弘:実践ディスプレイ工学,テクノタイムズ社,pp.11-24(2013)、鵜飼 育弘:液晶,Vol.21,No.3,pp.170-178(2017)次世代ディスプレイ展望 −有望技術と材料、日本企業の強みを探る−

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