コンバーテック2025年4月号_見本
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CDNVERTECH C口NVERTECHCDNVERTECH CDNVERTECH CDNVERTECH CDNVERTECH CDNVERTECH CDNVERTECH C口NVERTECH105電子材料の今昔 とにかく不活性ガスは他の元素と化学反応しないため、エレクトロニクス製品の主要な素材として使えないのが普通の考え方である。しかしながら、現在の半導体や石英ファイバーの工場では毎日膨大な量のヘリウムガスが消費されており、灰色に塗装されたヘリウムガスボンベを何本も積載した大型トレーラーが運んでいく。一方でヘリウムガスは決して安いものではなく、酸素や窒素のような月並みなガスに比べると桁が違うほど高価である。煮ても焼いても食えないという性質が不活性ガスの価値を生み出している。これだけ不活性であれば、1000℃を超えるような高温でも化学反応を起こさず、周りを酸化物などで汚染することなく極めてクリーンな雰囲気で加熱処理を行うことができる。 多い、少ないの違いはあるものの、不活性ガスは大気中に含まれており、これらを分別すれば得られるため、大元の原料費はタダである。しかしながら組成比率は1%未満で、窒素や酸素に比べてごくわずかである。それでもその母数が地球を覆う大気となると、資源は無限大といって良いであろう。 大気中に最も多く含まれる不活性ガスはアルゴンであるが、研究者たちは大気の組成を調べていて、窒素(約78%)と酸素(約21%)を取り除いても、まだ1%近い気体が残っていることに気付き、その気体がアルゴンを主体とした不活性ガスであることを突き止めた。これが化学工業における不活性ガス産業の始まりである。不活性ガスは他の化学成分と反応しないため使い道がなかったが、裸電球にアルゴンを充填すると寿命を著しく伸ばすことを発見し、不活性ガス産業が大きく発展する口火を切ることになった。 逆説的な言い方になるが、不活性ガスはエレクトロニクス用の部品や材料になるわけではない。禅問答のようになコンバーテック 2025. 4りそうだが、不活性ガスは何もない空間を作り出すという役目が大事であって、それ自体が何か物質を形成して残るわけではない。しかし半導体や石英ファイバーのメーカーにとっては何もない空間を作ることが大事であり、ヘリウムやアルゴンガスを使ってその空間を作り出している。不活性ガスは大気中から取り出すため材料費はタダである。しかしその何もない空間はそのままでは使えない。そこで不活性ガスの純度を上げたり、適当な容器に入れたりして実用に供している。そして、その量は現代ではとてつもなく膨大になっている。 物理的に観測が可能な宇宙は太陽系や銀河系、ブラックホールなどで、ある程度化学的な分析ができ、スケールも、何光年、パーセクという単位で計測できる。21世紀に入り、宇宙の構成を人工衛星で直接観測できるようになると、宇宙の年齢は約137億年であるとの説が信じられるようになった。この値が米国の人工観測衛星(WMAP)で、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の歪みを想定することによって得られたと報告されているが、筆者はその屁理屈がいまだに理解できないので、なんとなく気持ちが悪い。ここで解析された宇宙構成物質の割合は、92%が水素、8%がヘリウムで、その他の元素は全部併せても無視し得るほどの量であるということである(英語ではnegligible smallという表現で、汚染の言い訳をする時などに使う)。地球的に見れば、全人類を併せても取るに足らない量であるが、たった100億人足らずの人類の、100年そこそこの浅はかな思いつきや行為で、地球は破滅されようとしている。実に恐ろしいことである。現在、人類が生活を営んでいる銀河系から眺めれば、アンドロメダ座で起きたスーパーノヴァ(超新星爆発)など、マッチ1本の輝きにも足らず、たちまちに光の海の中で埋もれてしまう存在である。2.不活性ガスの特徴と用途コラム1   不活性ガスの存在 物理学が解析したところでは、宇宙にはダークエネルギーとダークマターが存在しないと色々と不都合が起きることになっている。 それでは、ダークエネルギー、ダークマターとはどのようなものであるかという疑問が出てくるが、これがほとんど見当もつかず分からないという答えである。誠に人を食ったような答えであるが、現代の物理学者の大方によって支持されているという。大方の中身が分からないためその使い道を言ってみろというのもかなり無茶苦茶な要求であるが、現代のエレクトロニクスは見事な回答を出してきた。 米国の発明家であるトーマスエジソンが白熱電灯を開発した際、電球の内側に真空を引くと電球の寿命が著しく延びることを見出した。さらに、電球の中に窒素や不活性ガスを封入すれば発光を上げられることを発見した。そして、費用対効果を考えると、アルゴンガスを電球の中に封入するのが最も効果的であると結論付けた。煮ても焼いても食えない不活性ガスであるアルゴンは資源としては十分な量を供給できたが、大きな需要は見出されていなかった。アルゴンガスは大気中に0.93%含まれるので、地球上どこでも十分な量を供給することができ、ほぼ無尽蔵といって良い。つまり、そのコストは極めて安い。ここで大量の不活性ガスを消費するエレクトロニクス産業が始まったことになる。アルゴンガスはガラス容器の中に封じ込められており、いったん封じ込められると、基本的に封入ガスが外部と接触して持ち出されることはない。しかし20世紀に入ると、真空管の需要量は幾何級的に増え、そこで消費される不活性ガスの量もけたたましい勢いで増加していった。

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