【太陽光発電】大阪大学、東京大学物性研究所、青山学院大学理工学部、artienceらの共同研究グループ、見えない光で発電する無色透明な有機太陽電池開発
大阪大学産業科学研究所の横山創一助教、家 裕隆教授、同大学院工学研究科、東京大学物性研究所、青山学院大学理工学部、artienceらの共同研究グループは、人の目に見えない近赤外光※1を利用して発電できる無色透明な有機太陽電池(OSC)※2の開発に成功した。OSCは、柔軟、軽量などの特徴を持つことから、次世代エネルギー技術の1つとして期待されている。一方、従来のOSCは、可視光※3を吸収して発電することで、着色しているように見えるため、採光性や意匠性が求められる場所への応用には課題があった。
今回、研究グループは、可視光をほとんど吸収せず、近赤外光を選択的に吸収する有機半導体材料を開発した。この材料を使用することで、有機太陽電池が高い透明性を保ちながら発電できることを確認した(図1)。

本成果により、建物や自動車の窓、ウェアラブルデバイス※4などに組み込める、次世代の透明な発電デバイスへの展開が期待される。
本研究成果は、アメリカ化学会誌 『Journal of the American Chemical Society』 (オンライン)に、2026年8月4日付で公開される。
家 裕隆教授は次のようにコメントしている。
「近赤外光は可視光に比べてエネルギーが低く、太陽電池に利用することは容易ではありません。今回の研究では、精密な分子設計により、無色透明性と発電機能の両立を実現しました。本研究成果が、次世代の無色透明な有機太陽電池や、ヘルスケア用ウェアラブルデバイスの開発につながることを期待しています」
研究の背景
太陽電池は、発電時に二酸化炭素をほとんど排出しないクリーンエネルギー技術。さらなる太陽電池の導入拡大に向けては、屋根や広大な土地だけではなく、建物や自動車の窓、農業用ハウスなど、これまで十分に利用されてこなかった身近な空間を発電場所として活用することが重要となっている。現在主流のシリコン太陽電池や次世代のペロブスカイト太陽電池は高い発電性能を示すが、太陽光を選択的に利用して発電することは容易ではない。
このような背景から、軽量・柔軟で、有機半導体の設計で太陽光の波長を制御できるOSCが注目されている。一方で、従来のOSCは、主に可視光を吸収して発電するため、透過・反射する光の色のバランスに変化が生じ、着色して見える。そのため、採光性や意匠性が求められる場所への応用には課題があった。そこで、目に見える可視光は透過し、目に見えない近赤外光を利用して発電する、「無色透明性」と「発電機能」を両立した新しいOSCの開発が求められていた(図2上)。
研究の内容
研究グループはこれまでに、有機半導体材料の構造と電子状態を精密に制御することで、可視光をほとんど吸収せず、近赤外光を選択的に吸収する分子設計指針を見出してきた(2024年6月プレスリリース)。本研究では、この設計指針をもとに、強い分子内相互作用を誘起する新規ユニットを設計し、これを分子内に組み込むことで、可視光を透過しながら近赤外光を吸収する新しい材料を開発した。この薄膜は、近赤外光を効率よく吸収する一方で、高い可視光透過性を示し、肉眼ではほぼ無色透明に見えることがわかった(図2左下)。
また、開発した分子は、近赤外光を吸収した後に電荷※5を生じやすく、さらに生じた電荷が効率よく薄膜内を輸送できることを明らかにした。その結果、この分子を発電層に組み込んだ太陽電池は、高い可視光透明性を保ったまま動作し(図2右下)、近赤外光領域で最大20%を超える外部量子効率※6を示した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本成果は、従来の太陽電池では設置の難しかった場所に、景観・視認性・採光性を損なうことなく発電機能を付与する技術につながる。また、近赤外光の一部を吸収して発電に利用できるため、遮熱効果や空調に必要な電力消費の低減も期待される。さらに本研究では、開発した無色透明な有機光電変換デバイスにより、近赤外光を用いた脈拍検出にも成功している。これにより、目立たず装着できるヘルスケア用ウェアラブル端末や、環境光で駆動する自己電力供給型センサーへの展開も期待される。
特記事項
本研究成果は、米国科学誌 『Journal of the American Chemical Society』 (オンライン)に2026年8月4日付で掲載される。
タイトル:“Laporte-Rule-Guided Molecular Symmetry Control of NIR-Selective Organic Semiconductors for Colorless and Transparent Photovoltaics”
著者名:Soichi Yokoyama, Kenta Kuroishi, Shunsuke Tanaka, Yuta Murotani, Ryusuke Matsunaga, Shuhei Kawaoka, Reo Ohno, Miki Hasegawa, Akinori Saeki, Jun Yoshinobu, Yutaka Ie
DOI:10.1021/jacs.6c05512
なお、本研究は、科学研究費補助金(20H02814、20H05836、20H05841、20KK0123、20KAKK15352、21K14602、23K17947、24H00482、24K08553、JP20H05832)、JST A-step研究推進事業(22713577、JPMJSF23B3)、JST未来社会創造事業 (JPMJMI22I1)、 A-step(JPMJSF23B3)、 JST CREST(JPMJCR20R1、JPMJCR20R4)、三菱財団(202310004)、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)「温暖化により生産力が著しく低下している施設生産の暑熱対策技術の開発」の支援を受けて実施された。
※1 近赤外光
太陽光に含まれる780nmから数μm程度の波長範囲に相当する目に見えない光。太陽光の約3~4割程度のエネルギー量を占め、地表に届いた近赤外光の大半は熱に変換される。
※2 有機太陽電池(OSC)
OSCはOrganic Solar Cellの略。有機半導体材料を発電層に用いる太陽電池。シリコン太陽電池に比べて、軽い、薄い、曲げられる、大面積に印刷できるなどの特徴を有する。
※3 可視光
太陽光に含まれる光のうち、400~780nm程度の波長範囲に相当し、人の目で感知できる光。波長帯の違いによって、青、緑、赤色などの異なる色として見える。
※4 ウェアラブルデバイス
身体に装着して使用する小型デバイス。腕時計型や皮膚に貼り付けるパッチ型があり、心拍や脈拍など健康状態や生体情報を測定する用途で使用される。
※5 電荷
電子や正孔のように電気を帯びた粒子。OSCでは、光吸収により生じたマイナスの電荷を持つ電子とプラスの電荷を持つ正孔が電極に移動することで、電流として取り出される。
※6 外部量子効率
太陽電池に入射した光子の数に対して、外部回路に電流として取り出された電荷の数の割合。値が高いほど、入射した光を効率よく電気に変換できていることを示す。

