【高周波電子基板向けPPE】東北大学・太陽ホールディングス、耐溶剤性向上の仕組みを解明
・ 高周波電子基板向けポリフェニレンエーテル(PPE)(注1)材料について、硬化後に高い耐溶剤性(注2)を示す仕組みを明らかにした。
・実験評価と熱硬化系シミュレーション(注3)技術を組み合わせ、反応性アリル基がPPEを熱硬化ネットワークへ取り込み、溶媒中での形状保持に寄与することを示した。
・本成果は、シミュレーションを活用して高分子材料の相分離(注4)過程を理解し、最先端の電子材料開発を加速する設計指針になると期待される。
概要
PPEは低誘電特性(注5)に優れ、高周波電子基板用材料として注目されているが、加工性と硬化後の耐溶剤性の両立が課題であった。
東北大学の三島翔子助教(大学院工学研究科)らのグループと太陽ホールディングスは反応性PPE材料を対象に、実験評価と熱硬化系シミュレーションを組み合わせることで、硬化後に優れた耐溶剤性を示すメカニズムを明らかにした。具体的には、PPEに導入された反応性アリル基が、硬化反応中に熱硬化性成分であるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)(注6)と反応し、三次元ネットワークを形成することで、溶媒中でも形状が保持されることを示した。本成果は、低損失ポリマー材料の高信頼化に向けた分子設計指針を与えるとともに、シミュレーションを活用した高分子材料開発の加速に貢献することが期待される。
本研究成果は2026年7月28日、英国王立化学会が刊行する高分子化学分野の学術雑誌Polymer Chemistryに公開された。
研究の背景
高周波通信や半導体パッケージの高性能化に伴い、電子基板材料には、電気信号の損失を抑える低誘電・低損失特性に加え、製造工程に耐える加工性や信頼性が求められている。ポリフェニレンエーテル(PPE)は低損失材料として有望であるが、一般的なPPEでは、加工時の溶媒溶解性、加熱時の形状安定性、硬化後の耐溶剤性を同時に満たすことが難しいという課題があった。
太陽ホールディングスはこれまでに、PPEの優れた低誘電特性を活かした新規反応性PPE材料を開発し製品化を進めてきた。一方で、この材料が硬化後に高い耐溶剤性を示す理由、特に硬化反応中にどのような内部構造が形成され、その構造が最終的な物性にどのように関係するのかは十分には明らかではなかった。高分子材料では、硬化反応、相分離、分子の動きやすさの変化が同時に進行するため、実験観察だけでその過程を詳細に捉えることは困難であったため、本研究では、実験評価と熱硬化系シミュレーションを組み合わせ、反応性PPE材料の耐溶剤性発現メカニズムの解明に取り組んだ。
今回の取り組み
本研究では、太陽ホールディングスが開発してきた反応性PPE材料を対象に、硬化後のフィルム形状、溶媒浸漬後の成分溶出、相分離構造を評価。反応性アリル基を有するPPEを、熱硬化性成分であるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)と組み合わせて硬化させたところ、非反応性のPPEを用いた場合に比べて、溶媒中でもフィルム形状が保持され、成分の溶出が抑えられることが確認された。
さらに、東北大学が開発してきた熱硬化系の散逸粒子動力学(DPD)シミュレーション(注7)を適用し、硬化反応中に材料内部で進行する相分離とネットワーク形成の過程を可視化した。その結果、非反応性PPEではTAICが局所的に凝集しやすいのに対し、反応性アリル基を有するPPEでは、PPE鎖がTAICの硬化ネットワークに取り込まれ、三次元的に連続したネットワーク構造が形成されることが示唆された(図1)。
また、硬化反応の進行に伴って分子の動きやすさが低下し、成分同士が拡散できる時間と、硬化反応によって構造が固定化されるタイミングの競合によって、最終的な内部構造が決まることが分かった。これにより、反応性PPE材料が加工前の溶解性と硬化後の耐溶剤性を両立できる理由を、硬化中の分子運動、相分離、ネットワーク形成の観点から説明できるようになった。
本成果は、実験だけでは捉えにくい高分子材料の内部構造形成過程をシミュレーションにより可視化し、材料性能の発現メカニズムを理解するための有効な手法を示すもの。今後、分子設計、硬化反応、相分離構造、最終物性をつなぐシミュレーション技術として発展させることで、低損失・高信頼性を兼ね備えた次世代電子材料の開発を加速することが期待される。

今後の展開
今後は、本研究で示した熱硬化系シミュレーション技術を活用し、分子設計、硬化反応、相分離構造、最終物性をつなぐ材料開発手法として発展させていく。これにより、実験だけでは捉えにくい材料内部の構造形成過程を可視化し、低損失・高耐熱・高信頼性を兼ね備えた次世代電子材料の開発を加速することが期待される。東北大学と太陽ホールディングスは、産学連携を通じて、シミュレーションと実験を融合した高分子材料設計の高度化に取り組んでいく。
【謝辞】
本研究の数値解析は東北大学サイバーサイエンスセンター「スーパーコンピュータAOBA」の計算資源を用いて行われました。数値解析はCoSMIC(http://www.cosmic.plum.mech.tohoku.ac.jp/)が提供するツールを利用しました。
本論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。
(https://doi.org/10.1039/D6PY00585C )
本研究の一部は、JST K Program(課題番号:JPMJKP24W1)の助成を受けて行われました。
【用語説明】
注1. ポリフェニレンエーテル(PPE):低い誘電率と誘電正接を示す高分子材料で、高周波電子基板向けの低損失材料として期待されている
注2. 耐溶剤性:有機溶媒などに触れても、材料が溶けたり膨潤したりして形状や性質を失いにくい性質
注3. 熱硬化系シミュレーション:加熱によって化学反応が進み、分子同士が結びついて固まる過程をコンピュータ上で再現・解析する手法
注4. 相分離:複数の成分からなる材料中で、成分同士が混ざり合わず、それぞれの成分に富む領域に分かれて存在する現象
注5. 低誘電特性:誘電率や誘電正接が低く、電気信号の伝送損失を抑えられる性質で、高周波電子基板材料に重要である
注6. トリアリルイソシアヌレート(TAIC):加熱により反応して三次元的なネットワーク構造を形成する、熱硬化性樹脂の原料として用いられる化合物
注7. 散逸粒子動力学(DPD)シミュレーション:多数の原子をひとまとまりの粒子として扱うことで、高分子材料の相分離やネットワーク形成などの大きなスケールの構造変化を解析するシミュレーション手法
【論文情報】
タイトル:Synthesis of Allyl-Functionalized Branched Poly(phenylene Ether) Enabling Network Formation and Solvent Resistance: An Experimental and Curing Dissipative Particle Dynamics Study
著者:Shoko Mishima, Yoshiaki Kawagoe, Kaho Shibasaki, Nobuhiro Ishikawa, and Tomonaga Okabe
*責任著者:東北大学グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センター 准教授 川越 吉晃
掲載誌:Polymer Chemistry
DOI: 10.1039/D6PY00585C
URL: https://doi.org/10.1039/D6PY00585C

