【AWARD】ダイセルと富士フイルム、酢酸セルロース(TAC)事業が「セルロース学会技術賞」受賞。液晶ディスプレイ等産業の発展を通じた社会貢献が評価
ダイセルは、富士フイルムと連名で、2026年6月1日に、セルロース学会の「2025年度セルロース学会技術賞」を受賞した。同受賞は両社の研究開発に基づき、ダイセルのTAC(三酢酸セルロース: Triacetyl cellulose)※1を主原料として富士フイルム社が成膜して製造するTACフィルムが、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)の性能向上と市場拡大に多大に寄与し、社会貢献したことをセルロース学会が評価したものである。2026年7月9日、府中の森芸術劇場(東京都府中市)で開催される、第33回セルロース学会年次大会中において授賞式および受賞講演が行われる。
研究開発の概要
TACフィルムは従来、写真フィルムベースとして広く用いられてきた。ダイセルと富士フイルムはLCD、OLEDにおける重要な光学フィルム材料の1つ「偏光板」にTACフィルムを用いるにあたり、TACフィルムの光学特性が表示装置の視野角等の表示品位を左右することに早期に着目し、ディスプレイ方式に応じたTACフィルムを次々と開発した。
表示品位に関わる重要な光学特性の1つは、光が素材を透過する際に生じる位相のずれ、レターデーション(位相差)。その制御のために、TACの分子構造を含むフィルム設計の見直しを行った。さらに、高品質の製品を安定的に供給するために生産技術を革新した※2。
LCDやOLEDでの視野角の拡大にあたり特に重要なのは、黒表示における光漏れだが、セルを斜めに通過する光は、セルの設計に反して位相差を生じ、黒色が黒に表示されない問題があった。この問題は、TACフィルムによって、逆の位相差を与えることで解消されるが、位相差はディスプレイの方式によって異なり、それに応じてTACについてさまざまな設計が求められた。


受賞内容
「ディスプレイ用三酢酸セルロース・フィルムの製品・技術開発」
受賞者:
阿隅雄也 氏(ダイセル リアルSBUテクニカルソリューションセンターセルロースグループ リーダー)
鈴木雅彦 氏(ダイセル 知的財産センター知的財産ソリューショングループ 部員)
網中英一郎 氏(富士フイルム アドバンストファンクショナルマテリアルズ事業部 シニアエキスパート)
深川伸隆 氏(富士フイルム アドバンストファンクショナルマテリアルズ開発センター 嘱託)
鈴木良明 氏(富士フイルム マテリアル生産本部・技術マネージャー)
※1 TAC (三酢酸セルロース: Triacetyl cellulose)
TACとは、木材の主成分であるセルロースを原料とし、セルロースのモノマー構成単位に3つ存在する水酸基をアセチル化して得られる酢酸セルロースの一種で、平均でおおよそ2.9個の水酸基がアセチル化されたものを指す。セルロイド製で燃えやすいことが課題だった映画用フィルムの不燃化を目的として、ダイセルは1954年、富士フイルム社の要請を受け、TACを開発・工業化した。
※2 ディスプレイの表示品位に関わるレターデーション(位相差)をコントロールするTAC固有の性質
フィルム状に成型される高分子化合物は線状の分子形態を有しており、その分子の縦方向と横方向では性質が異なることが一般的。一方TACの分子は特異な性能を有している。ディスプレイの表示品位に関わる光学特性の1つ、レターデーション(位相差)に大きな影響を及ぼす、分子の電子振動の縦横の特性の差「複屈折」について、TACはゼロ付近の値を有すること、さらに化学構造を制御することで「複屈折」の値が微調整可能であることを、継続的な研究により確認していた。この知見と技術が、ディスプレイ装置用のTACフィルムに応用されている。一連の研究開発成果は「ダイセル式生産革新」によって作られたダイセル独自の「知的統合生産システム」によって、早期に量産設備へと実装された。


